第三話 技術の早期修得への取組み

第三話 技術の早期修得への取組み

前回は、@伝承の難易度とA習得の難易度の2つの視点で整理することをお話した。今回は具体論に入り、伝承すべき事柄が技術として明確に確立されていて教えることは簡単だが、一方で、教えても作業の難易度が高くてすぐにはできないものをどう伝えていくかについて述べていこうと思う(図1)。

 

伝承は簡単だが修得は難しい技術

 例えば、外観検査の多くは、教えるのは簡単だが作業の難易度が高くすぐにできないものだ。検査規格を明確に規定して、それにふさわしい検査方法を教えれば、基本知識と基本技能がある人なら規格に適合しているか否かを判断することはできる。適切な教育を施した後、十分な時間を与えながらサンプルの合否を問えば、教わった人は正しく答えることができるだろう。

 

第三話 技術の早期修得への取組み

 

 しかし、それだけでは検査のスキルが修得できたことにはならない。実務の中で、良品に混じってあるかどうかわからない不良品を、限られた時間内で正しく検出することができることができて初めて検査スキルが修得できたと言える。これを克服するには、さまざまな条件下で、多くの検査を経験することが必要であり、ゆえに修得は難しいものだといえる。表面処理やバリの除去など、品位品格に関わる作業は、おおむねこういう性質のものが多い。

 

 あるいは、塗装、グリスの塗布、接着などの不安定な人作業も、この性質があるだろう。作業の方法は決まっていても、実際にうまくできるまでには多くの訓練が必要になる。ムラなく塗料を吹き付けることや、所定の位置からはみ出すことなく均一にグリスを塗布すること、そして隙間なく確実にモノを貼り合わせることなど、いくらコツを教えてもらっても、やはり数多く訓練をこなしながらスキルを高めてゆく性質が強いものは、簡単に教えられるが、教わってもすぐにはできない技術と言えよう。

 

技術の早期修得への取組み

 実務では、限られた時間内で、常に正しい作業を繰り返し行ったり、発生頻度の低い不具合を多くの検査対象の中から確実に検出したりすることが求められる。
そのためには、多くの訓練をこなしながら、スキルを高めてゆくことが必要である。
 技術・技能伝承の目的は、スキル育成に対する時間の加速にあり、ベテラン作業者が10 年かけて修得してきたスキルを、次の世代の人には1年、いや半年で修得させることが技術・技能
伝承の肝である。この目的を達成するためには、多くの訓練をこなしながら、スキルを高めてゆくことが必要な技術に対して、どうすれば、少しでも早く期待のスキルに育て上げるかを考える必要がある。
 図2に代表的なスキルの早期修得法を挙げてみたが、それぞれにメリットとデメリットがあり、万能の手法があるわけではない。ゆえに、どれか1つをとって実践するというより、これらの複数
の方法をうまく組み合わせて教育訓練を行うことが望ましい。

 

第三話 技術の早期修得への取組み

 

 筆者が特に勧めるのは、サンプルの活用である。
特に量産品ではサンプルの活用は訓練に極めて有効であるが、現実にはサンプルをまったく用意せずに検査を指導しているようなずさんな事例をよく見かける。これは費用や準備の手間を惜しむ故
の悪い事例である。一品受注モノでサンプルを準備するのが高額になる場合は、実物サンプルの用意が困難な場合があるが、類似のモノを活用した訓練用のサンプルやツールなどの手段があり、や
はり“ モノで訓練をする” という考えは徹底して追求すべきだ。

 

 このような実物などのサンプルでの訓練を十分にして、さらにマンツーマンの指導を入れたり、実践でのOJT に進んだりすることが望ましい。 

 

このような取組みを面倒だと思われる方は、本稿の対象となる「簡単に教えられるが、教わってもすぐにはできない技術」が品質に対してどのくらいの影響度を持っているかを考えて欲しい。それほど重要でないならば、そもそも教わってもすぐにはできないような難易度の高いプロセスを是正すべきであり、逆に重要だと判断するならば、後継者にスキルが確実に伝わるように、しっかりとした教育を施すべきである。

 

さらにもう一歩

 実は、教えられてもすぐにはできないと言うことは、伝承する側の技能の暗黙知の部分(勘・コツなど)が十分に出し切れていない可能性もある。暗黙知が十分出し切れているかの、さらなる洗い出しも課題となり得る。
 例えば、外観検査の例で言えば、より適切な見方(目の向け方、光の当て方、持ち方など)を見出すことができれば、もっと早く修得が可能になる。規格そのものがあいまいなために判断に迷うよう
なケースも、規格のさらなる追求や、表現の具体化などの検討により改善ができる。

 

 塗料やグリスの塗り方についても同様で、ムラなく塗れるコツが、ベテラン作業者の人から十分に出し切れているだろうか、あるいは、人のスキル依存を減らすための治具の開発や、作業方法の
開発もさらなる一歩を踏み出すための課題といえよう。

 

筆 者:ジェムコ日本経営 古谷 賢一 ふるたに けんいち 
本部長コンサルタント、MBA
所在地:〒104-0061 東京都中央区銀座6-13-16
    銀座ウォールビル10F
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