グローバル化について考える(2)
前回の記事で、以下のようにグローバル化で悩んでいる企業について書きました。
「見せ掛けの現地化ではなく、現地人が自身で事業自体を考える体制構築へのヒントが欲しい。」
ちょっと似たような話として、むかし、ある大企業の部長がぶりぶり起こりながらこんな事を言っていました。
「海外現地(東南アジア)の奴らはケシカラン!
せっかく知識を教え、技術を覚えさせたのに、ようやく使えるようになったと思ったらすぐやめて他の企業に行きやがる。
アイツラは恩義というものを知らなすぎる!!」
それはもう怒り心頭といった感じでしたね。
最初の人も二番目の部長さんも、おそらくは同じ前提で話をしています。つまり、現地の人々(主にアジアの人々)は日本人と同じ価値観を持っている、あるいは持つべきだ、というものです。
ちょっと話が変わりますが、外資系企業に入ってすぐの頃にシンガポールに出張したことがあります。現地のお客さんを訪問して商品案内や技術的な説明をしたのです。その際にシンガポール法人から営業マンが随行してくれました。
その営業マンは、当時27〜28歳くらいでシンガポール法人に中途入社した若者でした。結構、頭が良さそうな背の高いイケメンでしたね。以前は日系の企業で働いていたとも言っていました。
顧客訪問やら打ち合わせなどを繰り返して結構仲良くなった時のことです、一緒に食事をしながら彼はこんな事を言い出しました。
「俺は今の会社で頑張って実績上げてプロモーション(昇進)して、さらに良い企業に転職するつもりなんですよ。」
その話を聞いたときは心底びっくりしました。私は転職したばっかりで、けっこう大変だったこともあり、今の会社に停年までいようと思っていましたから。それが、同じような転職したての彼が「今の会社は次の会社への踏み台だ」とハッキリいったのです。
どうも、そのように言っているのは彼だけではなく、彼の同僚や上司なども皆同じような考えだったようです。それが、彼らの「常識」というもののようでした。
そのあと、韓国や台湾やインドや中国などの人々と一緒に仕事をする機会があり、彼らと親しく交流したあとにこう思いました。
「アジア人や欧米人も日本人と基本的な考えは変わらないな。」
もちろんある程度の規模の企業に入ってくるので、一定以上の学歴とそれなりのバックボーンを持っている人たちですので、共通している部分は多いのです。それもあってですが、国が違うとしても、人としての基本的なものの考え方や行動はそう大きくは違わないと感じたのです。
しかし、同時に次のような印象も持ちました。
「彼らは自分の欲求に素直に、正直に生きているな。」
つまり、アジア人や欧米人が企業で働くのは、お金を得るためであり、企業で実績を積んで社会的な地位を上げるためであり、より良い生活をするためなのです。間違っても「御社の理念に共感して」入社してきた人はいませんでした(私の知る限りですが)。
そのように考えれば、知識や経験を得て一人前に仕事ができるようになったら次を考えるのは自然の流れです。そしてもし、今いる職場があまりいい処遇や環境ではないと思ったら次に行くのをためらう人はいないでしょう。そこは我慢強さが美点とされる日本人とはかなり異なる点だと感じました(最近の若い日本人は結構変わってきたと思いますが)。
前述したシンガポール人に「なんで日系企業(住友系の大企業)を辞めたの?」と聞いたら次のように言ってました。
「だって何でも日本人が決めて、僕らは決められたことに従うだけなんだもん。張り合いもないし上に行けそうもなくてさ、つまらないよね。」
冒頭で、海外の現地化で悩んでいる企業の人が言っていた「現地人が自身で事業自体を考える体制」というのも、そもそもそのようなポジションに、能力のある現地人を、それなりの処遇で迎えているかが大きなポイントです。
私が思うに、現地の人を必死で働かせるのは比較的簡単で、明確な目標と成果を上げたときの報賞(ケチくさいものではなく非常に大きなもの)を示してやればいいのです。
例えばこんなふうに言えば、それこそ死にものぐるいで働くでしょう。
「おい、この売上目標10億円のプロジェクトはすべて君に任せるよ。
失敗したら君はクビね。
成功したら利益の半分を君にやるよ。」
私がいた外資系の企業は、非常に極端に言えばですが、こんな感じでした。そしてこれは、日本を除くアジア人には比較的受け入れやすい考えのように思います。
日本人の価値観(御恩と奉公とか、会社への忠誠心など)を押し付けたり、日本の社会制度の枠内で海外の事業を考えたりすると、色々と不都合なことが出てきます。
現地の人の欲求をうまく刺激する仕組みを作り上げることこそが「現地人が自身で事業自体を考える」ことにつながると言えるでしょう。
著者
座間 正信 / 株式会社アイピーアトモス
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