金属材料とは異なるFRP材料とCAEの関係
はじめに
FRPはガラス繊維や炭素繊維といった強化繊維とマトリックスである樹脂を組み合わせて作製する複合材料の一種である。樹脂にガラスの短繊維を混入した湿式プリミックスは昭和30年代から絶縁材料で活用されるなど身近な材料としてその歩みを進めてきている。1990年代からはFRPの中で最高レベルの機械、物理特性を有する連続した長繊維の炭素繊維を用いたCFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)が航空宇宙、スポーツ等の業界を皮切りに適用が進められてきており、近年は市場として世界的に好調を維持する自動車へ適用拡大していこうという流れが主流となりつつある。CFRPの4輪車への適用可否を検証するためのコンセプト実証車として販売を開始されたBMW i seriesは、具現化されることによって見えてくるCFRP適用の利点と課題を抽出した製品として位置付けられている。
そしてこのような製品化への取り組みにおいて最重要と考えられるのが、FRP材料を想定した設計技術である。しかしながらFRP材料の取り扱いの特殊性故、成形加工関連技術に注目が集まる傾向があり、FRP材料に適した設計技術を経ずに形を作ることが急がれる、というのが世界的な流れとなりつつある。このようにして形を作られた製品は、「なぜ適用材料をFRPにしなくてはいけないのか」というコンセプトの根幹部分が揺らいでいるものが非常に多い。そのため、製品化へ向けた検討の中で「材料価格」や「タクトタイム」といったわかりやすい一方でFRPが他の材料と比較し不利となるような議論が始まり、最終的に製品化の見送りという結論になるケースが多い、というのが筆者の実感である。
本記事ではFRP材料を想定した設計技術の一知見としてFRP材料とCAEに着目し、「金属材料と異なるFRP材料とCAEの関係」ということについて書いてみたい。
CAE活用においてポイントとになるFRP材料の異方性
FRPの強みでもあり弱みともいえるのが「異方性」である。例えば連続繊維の炭素繊維と熱硬化性エポキシ樹脂で作られるCFRPは繊維の方向とその垂直方向で強度は50倍、弾性率で15倍以上異なる。つまり、同じ材料でもどのような方向に積層するのかによって全く異なる材料に変化してしまうのだ。繊維長が短い(約5mm以下)場合を除き、仮にランダム配向や疑似等方積層にしたとしても、この異方性は程度の差はあれ必ず存在するのが現実である。
このこのことを考慮したCAEへの検討の一例がメッシングである。金属材料と同じようにテトラメッシュベースでメッシングを進めた場合、FRPが有する異方性を表現できるのか、という観点がFRP材料を想定した設計技術においてCAEを活用する際に極めて重要といえる。CAEについてはこのFRP材料固有の異方性を考慮したモデリング、特にメッシングができるかどうかが・・・
※ 本記事の続きはこちらから PDFでダウンロードできます
<略 歴>
東京工業大学工学部高分子工学科卒業後、ドイツ研究機関Fraunhofer Instituteでのインターンを経て、同大大学院修士課程(高分子応用研究)修了。
その後化学メーカーを経て日系大手機械メーカーの航空機エンジン部門にてCFRP部品設計開発業務に従事し、北米の航空機エンジンメーカーと協力しながら材料認定取得、部品量産ライン立ち上げを推進。本開発経験を踏まえ、マトリックス樹脂配合設計を中心としたCFRP材料研究を行い、海外科学誌で複数のFull paperを掲載させた。その後、FRP関連業界への参入及び該業界での事業拡大を検討する企業をサポートする技術コンサルタントとして独立。実践経験に基づき現在も川中及び川下企業を中心に、複数の顧問先企業の最前線で研究開発業務を先導、指示している。福井大学非常勤講師。
・著者のウェブサイト https://www.frp-consultant.com/