究極の選択?「生産性と品質どちらを優先するべきか?」
とあるメーカーでこんな相談を受けました。
「不良率が高くても工場の生産性を優先すべきか、やはり品質を優先すべきか?」
皆さんの工場ではどうでしょうか?
相談を受けた工場は加工メーカーで、工作機械を用いて、加工品を客先に供給しているのですが
この加工品は、不良率が高く、利益を圧迫していました。
(その不良率がなんと5%!中国の工場か!?と思うかもしれませんが日本の工場です。)
この状況を打破すべくこの工場では1年ほど前から外部の識者に参画してもらい、不良低減に努めていましたが、
期待する成果を挙げることができていない・・・
ということで筆者に声がかかったところでした。
つまり、依然、5%の不良が継続している状態が続いています。
「メーカーの概要」
工作機械は、CNC旋盤が大半で、20台ほど稼働しています。
また、社員も20名弱で、機械工場は、24時間稼動しています。
24時間機械を止めずとにかくまずは生産性重視という姿勢で仕事をしてきています。
「経営幹部へのインタビュー」
顧客からの受注量は順調で、売上高は増えている。
しかし、製品不良の発生が多く、出荷前の抜取り検査から、不良品が見つかり全数検査に移行することが増えてきている。
先日も、加工中に不良を発見し、機械を止めさせた。
そして、段取り作業からやり直しをさせて、加工を進めたが、また不良品ができてしまった。
これは、社員の品質に対する意識の欠如が原因ではないかと考えている。
「現場責任者たちへのインタビュー」
生産現場では、生産量を増やすために機械を稼動させ、止めないように意識をしている。
不良の原因は、キズや打痕が大半であり、寸法不良はほとんどない。
意見として
「現場では、機械を止めないようにしながら、巡回検査を行っている。
ただ、段取りや調整の作業を行っていると手が放せない状態になる。
このとき、他の機械は生産を継続している状態で、止めてはいけないと稼動させている。
また、製品の巡回検査をしなければならないのわかっているが動けない。
このため、機械を止めないようにすることが大切か、不良を発生させないために品質を優先して機械を止めるべきか、
判断に迷っている。」
これまで、不良対策として、不良の要因はデータとして、工場内で収集してきていました。
しかし、メーカー側は、現状のデータでは不足しているため、改めて機械別や担当者別など、
詳細なデータ採りを行い、改善を進めていこうという方向で考えていました。
さらに、この会社では原価計算を用いて、採算性を管理していたのですが、不良費用が何を意味するのか?を誰も理解できていませんでした。
そこで、まず会社の利益に対する不良の影響を整理し、不良に対する意識付けを行いました。
具体的に言うと、不良が利益、そして従業員の賃金にどう影響するか?ということです。
不良費用は、製品の原価に割付する必要があり、その分だけコストアップすることになるわけです。
売上高 − 変動費(外部原価) = 限界利益
通常、管理会計的に考えれば、
売上高から外部原価といわれる材料費を除くと会社に残るお金(限界利益)になります。
ところが、不良の発生した場合、この計算式が以下のように変わります。
売上高 − 変動費(外部原価) − 不良費用 = 限界利益
※ この場合の不良費用は、不良になった製品を廃棄していますので、材料費と加工費の合計になります。
つまり不良は、会社に残るお金を減らしてしまうことになるわけです。
この会社に残ったお金(限界利益)から従業員の給与や賞与、投資した設備機械の費用(償却費)などが支払われるわけです。
逆に言えば限界利益が減ることは、従業員の給与や賞与を増やせなくなることになり、設備機械への投資ができなくなるわけです。
「君たち、不良費用分の金額を取り戻そうとしたならば、どれだけの数量を生産する必要があると考えたことはあるかな?
不良が多ければ、賃金原資も減ってしまう。
会社にとっても従業員にとっても「不良の撲滅する」ことは、生産性云々以前の最重要課題なんだよ!」
不良発生=賃金の原資が減る!ということを従業員に徹底しました。
工場には日本人だけではなく、海外からの技能実習生も居たのですが、「不良=賃金にも悪影響」というのは非常によく理解できたようでした。
さて、品質不良防止への社員の意識づけをまずは徹底して行ったわけですが、後から分かったことは、実は、このメーカーの不良の問題は、品質管理上の問題ではありませんでした。
実際には、不良に対する意識や手法といった品質管理ではなく、一人の作業者が管理できる限界を超えた「管理不能台数」を管理させているから発生していたのでした。
ベテランの方にヒアリングしたところ
「受け持つ機械の台数が今の5台ではなく、管理可能な3台であるならば、不良ゼロにできる。」
と述べていたのです。
管理限界を超えた数の機械を動かせば、品質チェックをすることが無理ですし、不良が出るのは当たり前です。
不良率が高いから品質管理に問題がある!不良に対する意識を徹底しなければ!というのは当たり前の発想なのですが、その前に生産活動の現場をしっかりと理解しておくことが大切です。
生産の実態が、現実的に無理なものであることが分かっていれば、いろいろな歪が出てしまうことは当たり前です。
今回は、その歪が、不良というかたちで現れてきたのです。
日常の業務に終われ、この歪を当たり前のものとして気づかないことはないでしょうか。
それに気づいていれば、「工場の生産性を優先すべきか、不良率が高く品質を優先すべきか?」で迷うことにはなっていかなかったはずです。
結論として
1.ひとつの現象だけを捉えて、対処療法的に考えるのではなく、生産活動(ものづくり)全体を見て、無理・ムダがないか理解した上で対策をする。
2.不良に対する意識を向上させるには、従業員に「不良を削減しろ!」というのではなく、不良が社員みんなの給与にも悪影響があるということを理解させる
つまり、
木を見て判断するのではなく、全体を見て、対策を考える。
従業員の意識改革を行うには、「従業員の賃金と結び付けて」説明、理解させる。
ということが品質管理活動を「実」のあるものにするためには必要だということです。
コストテーブルを活用した原価の見積、原価管理、MRPUをベースとした生産管理システムによるコストダウン・コンサルティングを中心に活動しています。
機械加工品の見積もりソフト
「コスト・シミュレーター」
「切削・研削コストテーブル」
「簡単見積切削品」
板金加工品の見積もりソフト
「コスト算定システム」
「簡単見積板金品」
これまで、加工品見積ソフト5種類ともにExcel32bit版にのみ対応していましたが、今回Excel64bit版にも対応することになりました。
これによって、Office2013以降のプリインストール版に、Excel64bit版が搭載されている場合でも、すぐに見積ソフトを運用することができるようになりました。
また、Excel32bit版とExcel64bit版が混在している環境でも、区別することなく、同じ操作で見積コストを算出することができます。
操作方法や機能などの詳細は、弊社HPの見積ソフトおよびデモ動画のページを参照ください。
なお、現在デモ版の配布は行っておりません