不正流用で損害甚大! 営業秘密の流出を規制する法律の内容とは?
企業は、商品を販売して利益を得ることを業とするため、商品に関する研究データは機密性が高く、『社外秘』とされるものも多く存在します。
しかし、近頃、社外秘とされるような重要性が高いデータであっても、内部の従業員が、個々に割り当てられたIDやパスワードを用い、企業の管理するサーバーから瞬時にデータを転送し、転職後に不正利用するという事件が多数起きています。
そこで今回は、営業秘密の漏洩の規律について説明します。
営業秘密の漏洩について規律する法律とは?
営業秘密の漏洩について直接規制している法律を『不正競争防止法』といい、事業者間の不正な競争を防止しています。
不正競争防止法が禁止している代表的な事項について、具体例と共に見ていきましょう。
1.窃盗、詐欺、脅迫その他の不正の手段により営業秘密を取得する行為又は、不正取得行為により取得した営業秘密を使用・開示する行為
たとえば、営業秘密が記録されたUSBメモリを窃盗する行為や、営業秘密が記載された紙媒体を複写して取得する行為が該当します。
2.不正取得と知りながら、又は重過失により取得・使用・開示する行為
たとえば、身元不詳のブローカーなどから、何の調査もせずに重要な技術情報を取得するなど、調査を行えば容易に不正取得行為の事実が判明するにもかかわらず、それを怠る行為が該当します。
3.取得後に不正開示が介在したことを知り、又は重大な過失により知らないで取得し、使用・開示する行為
営業秘密を取得した後に、保有者から警告を受けて不正開示行為が介在していた事実を知りながら、営業秘密を使用又は開示する行為が該当します。
これらの行為は不正競争行為の一種として差止請求や損害賠償請求の対象となり、また罰則として10年以下の懲役、2,000万円以下の罰金又はこれらの併科も規定されています。
営業秘密に該当する三つの要件とは?
上記では、営業秘密の漏洩に関する法律について解説しましたが、そもそも『営業秘密』とはどのようなものなのでしょうか。
営業秘密に該当するためには、以下の三つの要件を満たす必要があります。
1.秘密管理性:秘密として管理されていること
営業秘密を保有する事業者が、当該情報を秘密であると単に主観的に認識しているだけでは営業秘密として充分とはいえません。
企業側(事業者)が『秘密として管理している』という秘密管理意思を秘密管理措置によって従業員に明確に示し、従業員の認識が確保されていなければなりません。
2.有用性:事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であること
ここでいう有用性とは、当該情報自身が事業活動に使用・利用されることによって費用の節約、経営効率の改善など、企業にとって商業的価値がある必要があり、開発中に失敗した実験の情報なども有用性は認められます。
公害に関する情報など公序良俗に反するような内容のものは該当しないとされます。
3.非公知性:公然と知られていないこと
すでに刊行物に掲載されているなど一般に入手できるような内容のものも営業秘密に該当しません。
あくまでも企業の管理下以外で入手できない状態になっていなければならないのです。
『秘密管理措置』が施されていることが重要
営業秘密に関する要件では、秘密管理性が特に重要で、『秘密管理措置』が施されているといえるかが、問題となります。
秘密管理措置の具体例としては、紙媒体の場合は秘密が記載されている部分をほかの情報から区分したうえで『マル秘』の表示を行う、施錠可能なキャビネットに保管する、コピー・撮影禁止、持ち帰り禁止などを周知するといった方法があげられます。
電子データの場合もやはり『マル秘』添付とID、パスワードの管理、そして人事異動、退職ごとにパスワードなどの変更とアクセス履歴の調査を行うことなどがあげられます。
秘密管理については、経産省の営業秘密管理指針で管理の仕方が詳細に例示されているところですが、裁判例を見ても管理の態様は企業の規模や業種、秘密の内容などによって一様ではなく、パスワードなどのアクセス制限すらされていなくても営業秘密と認められた例もあります(大阪地裁平成15年2月27日)。
営業秘密漏洩は差止請求や損害賠償請求といった民事法上の制裁のみならず、刑罰を課されることまで想定されており、厳格に規制されています。
企業の営業秘密の流出により、企業が被る損害は甚大なものとなることがあります。
今後、企業は自社の営業秘密の管理体制と従業員への周知教育を見直すことが重要です。
※本記事の記載内容は、2019年8月現在の法令・情報等に基づいています。
著者
小野 智博 / 弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
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