個人事業主も独占禁止法の保護対象になる?
フリーランスなどの個人事業主は、いわゆるサラリーマンなどの労働者と異なり、雇用主の指揮監督下にありません。
そのため、法的に保護される場合もあいまいで、過去には取引相手の企業から不当な契約を結ばれてしまうケースも見受けられました。
2018年2月、公正取引委員会は『人材と競争政策に関する検討会』の報告書を公開し、「フリーランス、芸能人、スポーツ選手も独占禁止法の保護対象となり得る」との見解を示しました。
独占禁止法の意義や公正取引委員会の見解発表によって、フリーランスなどの個人事業主に関する法律関係にどのような変化が生まれるのかをここで解説します。
働き方を公平に! 公正かつ自由に活動するための独占禁止法
独占禁止法の正式名称は、『私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律』です。
これは、公正かつ自由な競争を促進し、事業者が自主的な判断で自由に活動できるようにすることを目的とした法律です。
以下、独占禁止法が規制しているものをみていきましょう。
(1)私的独占の禁止
事業者が、他の事業者の事業活動を排除し、または支配することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限することを禁じています。たとえば、事業者が単独又は他の事業者と共同して、不当な低価格販売などの手段を用いて、競争相手を市場から排除したり、事業者が単独又は他の事業者と共同して、株式取得などにより、他の事業者の事業活動に制約を与えて、市場を支配しようとする行為をいいます。
(2)不当な取引制限の禁止
入札談合や価格カルテルなど、事業者が相互に連絡を取り合い価格、数量などを決めることを禁じています。
(3)事業者団体の規制
業界団体などが一定の取引分野における競争を実質的に制限することなどを禁じています。
(4)企業結合の規制
企業が合併、株式取得、提携することで、私的独占に至るおそれがある場合に当該行為を規制します。
(5)独占的状態の規制
競争の結果、50%超のシェアを持つ事業者等がいる市場において、価格に下方硬直性がみられるなどの市場への弊害が認められる場合には、競争を回復するための措置として当該事業者の営業の一部譲渡を命じる場合があります。
(6)不公正な取引方法の禁止
優越的地位の濫用、再販価格の拘束、不当廉売(ダンピング)、不当な取引拒絶、抱き合わせ販売、競争者に対する取引妨害など公正な競争を阻害するとされる違法行為類型を規制しています。
また、独占禁止法の補完法として、下請事業者に対する親事業者の不当な取扱いを規制する法律として『下請法』があります。
あいまいだった個人事業主を独占禁止法が明確化
従業員として雇用している場合、会社(使用者)と従業員(労働者)の関係は労働基準法などの労働関係諸法令による規制を受けることになります。
一方、フリーランスのエンジニアや芸能人、スポーツ選手(役務提供者)と取引関係にある発注元や芸能事務所、スポーツチーム等(発注者)との関係は、事業者間の取引になるので、独占禁止法の適用対象となります。
以前から、個人事業主も事業者であり、事業者間の取引には独占禁止法が適用されると考えられていましたが、2018年2月の『人材と競争政策に関する検討会』報告書の中では労働法と独占禁止法の関係を解説。
昨今の労働市場の状況も踏まえ、今後は“労働者OR事業者”、あるいは“労働契約OR NOT”という二者択一的な判断ではなく、問題となる事案について個別に独占禁止法上の適用可能性を検討すべきだと提言しています。
フリーランス契約を今一度見直すきっかけに
上記の報告書では、複数の発注者(使用者)が共同して役務提供者の移籍や転職を制限する内容の取り決めを行うこと等は、「独占禁止法上問題になることがある」としています。
また、発注者が役務提供者に合理的な範囲で専属義務等を課すことは、直ちに独占禁止法上問題になりうるものではありません。
今回の報告書が出されたことで、フリーランスを多く使っている業界では、独占禁止法違反に関する情報提供が多く寄せられる可能性も出てきそうです。
フリーランスの保護については、厚生労働省等が法整備を検討しているという報道もあります。
また昨今は、下請法の執行が強化されているので、今回の報告書の公表を踏まえて、フリーランスとの取引に問題がないか、人事部を中心に確認しておきましょう。
※本記事の記載内容は、2019年3月現在の法令・情報等に基づいています。
著者
小野 智博 / 弁護士法人ファースト&タンデムスプリント法律事務所
海外展開成功に必要な@販路を開拓、A拠点を開設、B海外企業と交渉して契約を結び、C現地法人を運営・管理、同時に、Dコンプライアンス対策を行う…これらの業務を日本からワンストップで実現をサポート。
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