コスト・ソリューションの考え方
会社では、日常的に「コストダウン」という言葉が聞かれます。
ここで用いられるコストダウンのコストとは、どのようにとらえられているのでしょうか。
購買部門を例に同じ部品を海外と国内で調達する場合のコストを考えてみます。
海外調達の場合、現地の事務所で部品を購入し、日本に運んできていることにします。つまり、自社の工場まで運ぶ輸送コストは、社内で負担しているわけです。
そして、現地事務所で購入した部品の費用(部品1個あたり)をコストダウンの対象になるコストと考えるでしょう。
海外から購入する目的は、安価な部品価格での入手です。
一方、国内で調達する場合も、海外調達と同じく部品をコストとして扱っています。
このとき、海外と国内での購入単価を単に比較して、海外で調達するほうが安価であるなどと考えていないでしょうか。
海外の現地事務所から自社工場までの輸送コストは、会計上購入部品のコストに含められることはありません。
しかし、工場まで運ぶための費用は発生しています。
一方、国内で調達した部品には、一般に購入金額の中に工場までの輸送コストが含まれています。
この状態での海外と国内の購入金額の比較は、適切であるとはいえません。やはり、同じ条件で比較することが必要です。
とくに近年の海外調達では、生産ロットが小さくなる傾向になってきていることからも輸送コストを検討に加えていくが必要です。
つぎに、ある企業で起きたコストダウンの事例から考えてみましょう。
その企業では、コストダウンのために在庫削減をテーマにカンバン方式の導入を進めました。
協力会社では、部品納入を指定された日時に必要数量のみ親会社の工場に納入する形態を取ることになりました。
すると、これまで宅急便などで届いた品目が、時間指定で必要数量分だけ納入されるようになったのですが、従来納期までにトラックなどで納入してきた協力会社が、時間指定されたことによって、ある特定の時間帯に工場に納品することになって、工場周辺が渋滞するようになってしまいました。
さらに、部品の積み下ろしを協力会社側で行うのですが、納入時間が集中してしまうことによる積み下ろしのためのフォークリフトなど運搬具が不足し、納入品の置き場所の確保ができないなどによって、それまでほかの会社を含めて1日2,3社の納入ができた協力会社が、1日がかりでの納品作業になってしまったのです。
このように協力会社の納入作業の負担が大きく増えてしまったのです。
これは、カンバン方式といいながら、納品作業の集中によって大きな混乱を招くことになったのです。
この結果、多くの協力会社から大変な苦情が親会社に寄せられ、もとの納入体制に戻すことになってしまいました。
これは、協力会社にとって納品業務の負担が増え、地域にも迷惑をかけることになってしまったわけです。
協力会社の単価の中には、納品業務のための費用も含まれています。
そして、協力会社にとっては、従来の納入処理から大幅に処理時間が増えてしまうことになれば、それだけコストアップになり、採算が合わないという判断を生じることになるわけです。
さらにもう一つ、部品を海外から調達している事例について考えます。
その会社では、海外(中国)から部品を調達して、国内の工場で組立作業を行っています。
そして、納入された部品を組付けていると、うまく組めない部品が発生しています。つまり、不良品です。
発生した不良数については、取引先に連絡し、無料で代替品を送ってもらっているとのことでした。
この結果、不良代替品が送られてきて、それを組付けて製品を出荷するという生産活動を進めていました。
この状況でコストダウンしたいが、どのように進めたらよいかの相談でした。つまり、部材について、海外(中国)から安価に調達している、これ以上のコストダウンをどのように進めたらよいかということです。
ただ、設計の見直しについては、経営幹部から検討の指示を受けているので考慮しないでくださいということでした。
少し考えていただきたのですが、不良部品が発生しても、無料で代替品を入手できれば費用は発生しないと考えてよいのでしょうか。
そのようなことはありません。
不良品を組付けようとして組めない、不良品であることの確認の作業が発生しているわけで、それだけの費用が生じてしまうわけです。
また、調達部門でも、代替品を送ってもらうための連絡作業が余分に発生しているわけです。
さらに不良が発生することを考えれば、その分だけ余分に在庫を持つことや不良品の処理などの費用も発生します。
このように述べさせていただいた事例では、部品を安価に購入するということで、その部分だけをとらえるならば、確かにしっかりと業務を遂行しているように見えます。
しかし、視野を広げてとらえてみると、そこには多くのムダなコストということが見えてきます。
つまり、部分最適なコストのとらえ方をしているとその影響や気づかない部分で発生しているムダなコストが見えないということです。
経営活動あるいは生産活動という全体最適なコストの見方をすることでムダなコストを発見し、取り除くことが大切です。これが、コスト・ソリューションの考え方であります。