営業活動に必要な「コストテーブル活用法」
顧客にとって望まれる取引先とは、どのような営業活動をしている会社でしょうか。
取引の基本は、品質・納期・コストにあります。
したがって、これら3つの要因を改善提案できることが、顧客にとって喜ばしいことではないでしょうか。
営業活動は、受注獲得のために日々取り組まれています。
そして、営業活動は、生産活動のように時間で考えるのとは異なり、受注獲得ができなければ何も残りません。
その一方、受注が獲得できたとしても、受注金額の中に利益が含まれていなければ、会社の存続を危うくします。
近年、受注が獲得できなければゼロということで、利益を度外視して受注の獲得に動くことも珍しくなくなってきています。
しかし、利益が確保できていない受注獲得は、当面の収入を得ることはできるが、会社の存続を先に延ばすことはできても、会社を維持・成長させていくことはできません。
このため営業活動では、獲得した受注の中に利益が含まれていることへの意識を強く持っていることが必要になるのです。
それでは、利益を意識するために企業ではどのような方策を打っているのでしょうか。
ある会社の社長さんから、以前に在職していた会社(当時営業部長をされていました)のことを話ていただいたことがあります。
その会社では、社員を営業部門に配属する前に1年間工場でものづくりの経験をさせることになっているそうです。
そして、ものづくりの経験をする中で、原価積算のための教育を受けることになっているとのことです。
この教育の結果は、営業担当者として顧客と価格交渉のときに、その場でどこまで譲歩可能かを判断でき、迅速な返答ができるということでした。
これは、冒頭に申し上げました利益を意識した営業活動を実践しているということではないでしょうか。
以前には、社員教育の重要性を理解して、このような原価積算についての教育を営業部門だけでなく、設計部門や生産部門など幅広く実施されてきましたが、
1990年代以降このような教育少なくなってきています。
先に紹介しました会社では、製品がベアリングでしたので類似した形状のものが多数あり、基準となるいくつかの条件を設定しておくことによって、迅速に原価を積算できるようになっていました。
これは、コストテーブルの一つで、加工時間をもとに時間単価を乗じて積算しています。
コストテーブルとは、経営活動とコストの関係を計算式や図表にまとめたもので、一般に製品の見積り業務で活用されることが多いものです。
このコストテーブルを活用して原価を求め、採算性の判断をしているわけです。
そして、この事例では、市販品といわれるものが対象になっています。
これに対して、部品やユニット、サブAssyなど発注先企業の仕様に基づく場合は、作成されるコストテーブルが若干異なることになります。
営業活動では、機能−方式コストテーブル、機能−構造コストテーブル、生産方式コストテーブルなどが用いられ、要求される仕様を「いくらで作ることが出来るのか。」の
概略コストを迅速に積算することが出来ます。
これらのコストテーブルを簡単に説明いたしますと、
@.機能−方式コストテーブル
ユニットや部品の機能を明らかにして、その機能を達成する手段(方式)ごとにコストとの関係をテーブル化したもの。
A.機能−構造コストテーブル
ユニットや部品の機能をその機能を達成する機構、構造ごとにコストとの関係テーブル化したもの。
B.生産方式コストテーブル
生産方式ごとに重量あたり、あるいは体積あたりに、コストテーブル化したもの。
そして、ここからが肝心です。
これらのコストテーブルは、基本になる構造や構成、仕様などに対するコストを求めたものであり、さらにアイデアを加えて洗練化を図り、最適なコストを追求することになります。
これを提案していくことが提案型営業へとつながっていくのです。
提案型営業では、とくにコスト面の改善、つまりコストダウンが注目されます。
コストテーブルを活用することによって、部品やユニット、サブAssyなどの概算コストを見通し、アイデアを加えて洗練化した構造や構成、仕様などに対し、詳細なコストの積算と採算性の判断を行うわけです。
この活動は、営業部門の担当者やメンバーだけで遂行できるものではありません。やはり、プロジェクトという形態をとるかはありますが、多くのメンバーの知識や経験、ノウハウを入れていくことです。
つまり、技術やノウハウ、情報の蓄積と整理の進め、コスト面からまとめたコストテーブルを活用するのです。
最後にコストテーブルを活用して計画した原価に対して、実績の評価について述べます。
この点についても、ある試作品製作会社の事例を紹介したいと思います。
その会社では、営業担当者が、受注のために工程別の見積り金額を算出し、顧客に提示するとともに受注した段階で工場にその明細を渡します。
そして、顧客に納品した後に当初予定した利益が確保できているのかを確認するために、工場での実績に対して受注見積りでの明細を比較して、その差額原因をチェックしています。
そのうえで、利益を減らしてしまった金額の大きい品目に関しては、その原因を生販会議で確認を行い、次の行動に生かしていました。
具体的には、営業部門での見積り工数が甘いことが多く、どのようにしてその工数が求められたのかを確認し、その理由をコストテーブルに反映するということを繰り返していました。
また、使用した機械が計画のものとは異なり、コストアップとなった場合も、機械の性能や作業の負荷状況などの課題とコストに対する責任と権限を明確化し、今後の対策を検討しています。
このようにコストテーブルは、計画と実行を繰り返す中で必要な情報やノウハウの蓄積と活用へと進めること、販売価格と利益の関係において有効なツールとして活用できるのです。