残業代未払いは付加金で倍返し
海外ツアーの添乗員が、ツアー期間中に行った時間外労働の残業代が未払いであるからということで請求した、阪急トラベルサポート事件は、今年1月24日に最高裁が控訴審判決を支持して決着しました。
この一連の裁判で認められた請求の中で、ちょっと変わったものに付加金というものがあります。今回のコラムでは、使用者側にとってありがたくない、付加金について是非知っていただきたいと思います。
たとえば、この裁判の第1審判決(東京地裁)の主文では、
1.被告は、原告に対し、金12万3700円及び内金5万8100円に対する平成20年1月26日から(中略)支払い済みまで年6パーセントの割合による金員を支払え。
2. 被告は、原告に対し、金12万3700円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払い済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。(以下省略)
となっていて、1.と2.では後半の書き方が少し違いますが、支払うべき金額は同じです。どうも、この判決では、会社は同じ金額を2度払わなければならないようです。
1.の金額は未払い残業代のことです。2.の金額は「付加金」といって、裁判所が決定する制裁金のことです。
つまり残業代を払わなかった会社に倍返しの判決が下ったということなのです。
付加金の根拠は労働基準法114条(付加金の支払い)です。
この条文では、解雇予告手当(20条)、休業手当(26条)、残業や休日・深夜勤務に対する割増賃金(37条)、有給休暇の日の賃金(39条)について、会社がこれを払わなかったら、それと同額を「付加金として払え」と裁判所が命令できると書いてあります。39条の有給休暇の日の賃金を払わないという事態は現在ではあまり考えられないことですが、労基法制定当時は想定していたようです。
ちょっと長いですが、この第114条の条文を読んでみてください。
裁判所は、第20条、第26条もしくは第37条の規定に違反した使用者または第39条の規定による賃金を払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払い金のほか、これと同一額の付加金の支払いを命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあったときから2年以内にしなければならない。
この考え方の基になっているのは、払わなくてはいけない残業代を払わなかった会社が判決によって払うことになっても、法律で決められた当然のことをするだけの話だから、付加金支払いを命じることで、制裁という意味を持たせようという事です。ルーツはアメリカの2倍賠償制度であるとも言われています。
ただし、いつでも付加金の支払いが命じられるというわけではありません。
まず、労働者(通常は原告)が請求しなければならないことになっています。
次に、請求できるのは裁判による場合だけとなっています。労働審判や労働局のあっせんの場では請求しても認められないと解釈されています。
そして、最近の裁判では、未払い残業代請求などの裁判を通じて、裁判官が、会社の行為の悪質性を勘案して、付加金の金額を調整する(同額ではなく低く設定する)というケースも出てきています。
このコラムでリファーしている阪急トラベルサポート事件では、付加金についてどのように判断しているのか見てみましょう。
1審の東京地裁判決では、「被告は時間外割増賃金及び休日割増賃金合計12万3700円を支払っていないところ、制裁としての付加金を課することを不相当とする特段の事由は認められず、同額の付加金の支払いを命ずるのが相当である。」と、残業代払っていなのだから、付加金を課さない理由はなく、付加金を払えと命じています。私の理解ですが、残業代を払わなかったことについてやむを得ない理由がないので、未払い残業代と同じ金額の付加金を払えという事になった、ということでしょうか。
2審の東京高裁判決でも付加金は課されていますが、その理由がもう少し詳しく述べられています。その一つは、会社が労働基準監督署から、残業代未払いについて是正勧告・指導票が出されたにもかかわらず、添乗員の労働時間の把握は困難であるとして、是正指導の内容を拒否したことが指摘されています。こうした会社の態度を勘案して、裁判所は、付加金を課さないと判断すべき事情は認められないから、100%の付加金を払えと命じました。
付加金は、会社にとってありがたくないものだということを知っていただけましたでしょうか?
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