「40年働いて、厚生年金納めてきたのに、年金ってこんなに少ないの?」
「40年働いて、厚生年金納めてきたのに、年金ってこんなに少ないの?」
これは私が実際にご相談を受けた、ある方からのご質問です。
正確にはその方の奥様からのご質問でした。
「こんなに少ない金額では生活していけない。」というご心配から、ご相談に来られたのでした。一緒にいらしたご主人様も納得がいかない様子でしたが、さりとて、どうしてこうなったのかがわからず混乱していらっしゃる様子でした。
この方は60歳で定年退職される予定で、それまでにあと半年という時期になり、もらえる年金額を知りたいと年金事務所に行かれたのだそうです。
40年もの間ずっと会社勤めであれば、厚生年金の平均的な金額としては、月8〜10万円程度にはなると思われます。65歳以降からは老齢基礎年金も約6.5万円(40年加入の満額の基礎年金が出たとして)出ますし、その時、奥様が65歳未満で奥様ご自身の厚生年金加入期間が20年未満なら、夫の年金に加算される加給年金も月3万円程度ありますので、合計20万円くらいにはなると思います。(いずれも平成25年度実績額)
そこで、私がお尋ねしたのは、
「ご主人様は厚生年金基金にご加入ではありませんでしたか?」
でした。ご本人はわからないとのことでしたので、年金事務所でもらってきたという年金加入記録を見せて頂くと、入社当時から40年間ずっと基金加入でした。入社したときに厚生年金基金加入員証が渡されていたかと思うのですが、40年も昔のことですからおそらく忘れていらっしゃったのでしょう。無理もないことです。
そこで、
「基金からも年金が出ますから、○○厚生年金基金へも請求して下さい。加入員証がなくても氏名、生年月日、基礎年金番号で記録確認できます。」
と申し上げるとやっと自信を取り戻されたのか、安堵の表情に変わりました。おそらく、ご自身が勤めてこられた40年間の結果として国から出る年金額があまりに低いことにがっかりされていたのかも知れませんね。いずれにしても、ご夫婦で安心された様子で帰られました。
さて、厚生年金基金に携わってこられた方や、基金加盟企業の経営者の方々は、
「代行部分」という言葉を聞かれたことがあるかと思います。
厚生年金基金に関する用語は聞き慣れない言葉が多く、またその意味も難解なものが多いのですが、「代行部分」とはまさに、上で述べた、「基金からも年金が出ますよ」の『年金』の部分なのです。もちろん上乗せ部分も含まれていることがありますが、大部分は厚生年金を基金が代行して払ってくれる年金です。
つまり、現役時代に厚生年金基金に加入していたことのある年金受給者は、その期間に対する厚生年金部分を基金からもらうことになっているのです。国からは、基金加入期間分については、物価スライド等の付加的な部分しか出ないのです。ですから、国から出る年金額が非常に低いので、『これしか出ないの?』と、びっくりしてしまうことがよく起きるのです。
厚生年金基金は、国の年金制度ではなく、あくまでも民間の年金保険事業組織です。
基金は、国の厚生年金の一部を代行して、年金保険料を徴収し、年金を払うことを業務としています。基金に加盟している会社は、保険料を基金に払い込み、運用を委託しているという仕組みです。ですから、運用結果は基金加盟企業に責任が発生します。マイナス運用で損失が出れば、埋め合わせするのは加盟企業です。
任せてあるから大丈夫、ということでは済まないのです。AIJ事件や24億円使途不明金事件が再び起きないとは限りません。
他方で、代行部分は、国の年金の代りに払う年金ですから、必ず、漏れなく実施されなければなりません。年金額を下げざるを得ないとか、払えなくなってしまったといったことがあってはならないのです。
このために基金の財政はどのような状態が望ましいかと言えば、資産が十分にある事です。純資産が代行部分(最低責任準備金)の1.5倍くらいが目安とされています。
ところが、リーマンショック以来の資産運用難や、少子高齢化の影響から、基金の資産が安全な状態とは言えない状況になってきています。今は、入ってくる保険料よりも払っている年金の金額の方が多いといった状況にある基金も多いのが現状です。この純資産が代行部分を下回って1.0未満となると『代行割れ』と言われる状態となります。
これは、国の年金部分がまかなえない資産状態にあるということです。国の調査では全厚生年金基金の4割が代行割れしているとなっています。
繰り返しますが、
代行割れしてしまった基金の資産の不足部分を補填するのは、加盟企業です。
昨年度の運用が好調だったことから代行割れ基金数が大幅に減ったと報道されていますが、瞬間風速かも知れませんし、基金存続のためには代行部分の1.5倍以上の純資産まで積み上げる必要があることも、基金に課せられた課題です。以前のように年利5.5%の運用が可能だった高金利時代に比べたら、今の時代は、プラスマイナスのぶれが大きく、運用担当者泣かせの時代とも言えます。
今年(H25年)6月に成立した、厚生年金保険法の改正では、「代行割れを二度と起こさないための制度的措置を導入する必要がある」として、存続を目指す基金にとって、かなり厳しいとも思われる改正が盛り込まれました。
代行割れしている厚生年金基金の存続を放置して、基金が最終的に『もう年金が払えなくなります』という事態になってしまう危険性を回避するためです。このような事が起きてしまったら、保険料を払ってきた会社や従業員にとっては甚大な損害になります。そうなる前に、基金の解散や代行返上などの手続がやりやすくなるように、制度の緩和も盛り込まれました。代行割れの部分は加盟企業全体で埋め合わせしなければなりませんが、従来よりも、代行部分を国に戻しやすくしようということです。
国は、平成26年4月から5年間のうちに、代行割れしている基金について、早期の解散を促していくと明言しています。基金の根拠法は、厚生年金保険法の第9章でしたが、今年の改正により、そっくり削除されて、附則に移されました。国の本気度が示されていると思います。
このコラムを読んで下さっている御社が、厚生年金基金にご加入でしたら、少なくとも単年度の収支と資産状況について、今すぐにご確認されるようお勧めいたします。
昨年度の運用状況は良かったという基金が多いようですから、運用実績はプラスかも知れません。国の年金資産運用実績は、平成24年度期末時点で11.2兆円超の収益が出たと発表されています。これは、10%超の運用益です。御社ご加入の基金でもプラス運用になっているかも知れませんので、それを確認するだけでも、基金だよりを開いてみる価値はありそうです。
財務諸表の見方については、こちらのコラムをご覧下さい。
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