顧客価値に基づく値決め
「値決め」が経営において、いかに重要かを示した言葉として、京セラ創業者の稲盛和夫さんの「値決めは経営である」という有名な言葉があります。
この言葉の真意について、稲盛さんの著書から引用します。
「経営の死命を制するのは値決めです。
値決めにあたっては、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、その価格決定は無段階でいくらでもあるといえます。
どれほどの利幅を取ったときに、どれだけの量が売れるのか、またどれだけの利益が出るのかということを予測するのは非常に難しいことですが、自分の製品の価値を正確に認識した上で、量と利幅との積が極大値になる一点を求めることです。
その点はまた、お客様にとっても京セラにとっても、共にハッピーである値でなければなりません。この一点を求めて値決めは熟慮を重ねて行わなければならないのです。」
※「京セラフィロソフィー」 サンマーク出版 稲盛和夫著
製造業であれば、自社製品の「値決め」について、大きく以下の3つの方式があります。
1. 自社製品の製造コストに標準利益を乗せる値決め
2. 競合の価格を参考にした値決め
3.自社製品導入によるコスト削減や利益創出の効果から値決め
多くの企業を見ていると、1と2の方式で値決めをしているケースが多いです。
すなわち、自社製品を作るのに要する原価を積み上げ、そこに一定利益を乗せ、
更に競合の価格を参考にして売値を決めるやり方です。
それに対して3の値決め方法は、以下のような考え方です。
例えば、工場で不良品が一定割合で発生し、課題になっているとします。
不良品 1個で10万円の損失が出て、毎年20個の不良品が発生しているなら、5年で1千万円の損失となります。
このような課題に対して、自社の検査装置を導入すれば不良品発生が防げるならば、価格が1千万円でも、5年で投資回収ができて、6年目以降はコスト削減分が利益となるため、合理的判断として顧客は1千万円払うでしょう。
仮に、この検査装置の製造コストが400万円で、400万円の利益を載せて800万円で販売すると、200万円が儲け損ないとなります。
この値決め方法のポイントは、営業が顧客の現状業務や課題を正確にヒアリングし、そして、「自社製品導入によって顧客が得る価値」を論理的に説明することです。
このやり方で成功している代表的な企業が、営業利益率50%を超えるキーエンスです。
日本の賃金が30年以上も上がらないのは複合的な要因ですが、そのうちの一つは、自社の製品やサービスの付加価値を価格に転嫁できていない点にあります。
米澤 裕一 / 合同会社バリューアップ
経営コンサルタントとして独立後、1年目でものづくり補助金で90%の採択実績を残す。勝てる土俵で顧客提供価値を高め、補助金を活用した資金調達やボトルネックの改善によって、200社以上の利益改善に貢献。