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有事のルール−:「260分の1=365分の3?」

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有事のルール−:「260分の1=365分の3?」

[序文」
格差拡大を招いたとする政策批判をかわす為、よく用いられるのが、「偏在する富がオーバーフローすれば、それが徐々に下層に行き渡り、やがて庶民の懐も潤してゆく」という、トリクルダウンの構図を示すシャンパンタワーの絵柄ですが、この画をみるたびに、何故か子供の頃のほろ苦い思い出が甦ってきます。

 

当時、地元の祭りで山車を曳き終わると、店が持ち回りで菓子やおひねりを配るという慣わしがあり、子供時代のささやかな楽しみでした。
ある年の祭りの後、当番店となっていた中華そば屋で、ラーメンが一杯ずつ振舞われることになり、10人を下らない子供達が首を長くして順番待ちをしていましたが、店主は一向にその気配を見せず、誰一人食べることも出来ないまま、やがて日付も変わろうかと云う頃、母が迎えにやって来て、後ろ髪を惹かれながら、家路に着いた記憶があります。

 

◯今でも脳裏に焼きついて離れないのは、ラーメンへの心残りも然りながら、「あの店は、多人数に大盤振る舞いする気は端から無いんだよ。だから、いつまでも未練がましい顔をしていないで、潔く諦めなさい」という母の叱責です。

 

淡い期待が、理不尽な現実に裏切られ消え去ってゆく−何とも言いようの無い憤りと虚脱感。
重ねられたグラスの絵柄に、あの時の心象が二重写しになってしまうのは、恐らく、為政者の振りまくトリクルダウン幻想の正体が、性質の悪いホラ話に過ぎないことを、本能的に感じてしまうからかも知れません。

 

◯じっくり観察するまでも無く件の思い出の方が「未だマシ」と思えるほど、あの絵柄は欺瞞に満ちています
例えラーメン一杯とはいえ、一方には具体的分配の明示があった訳ですが、この画には入手できる果実=期待値=の姿さえなく、最下層にもいずれ行き渡る(食べさせてやるよ)といいながら、5年掛かるのか10年先なのか、その期限すら何も示されていません

 

店主=責任を負う当事者=の影も見えない上、実は横溢までには多大な時間を要する程、てっぺんのグラスは極端に大きい筈にも拘わらず、恰も他と全く同サイズで、直ぐにでもあふれ出すかの様に描写されている等、これは、明らかに騙し絵そのもの、と云っても良い虚構の世界なのです。

 

本文では、このような、信憑性の乏しい果実配分ストーリーが一人歩きする裏側で、具体的な負担増の話が着々と進められている現実と、その対策案をお伝えしようと思います。

 

[本文]
●10月号では、学者10名で構成される日本再興戦略会議において、
@新しい時代状況に応じた新しい労働時間制度を作る
A長時間労働による心身不調者増や生産性低下防止策として、月間残業上限80H規制を行なう
B長時間労働抑制の為、休日・休暇取得の強制的取り組み(週休2日×52週+有給休暇20日=年間124日の、いわゆる124日規制)を強化する
−の三位一体改革推進が議論されている旨、お伝えしました。

 

●残業規制は、明らかに、”過労死ライン”とされる80Hを意識したものと言えますが、有給休暇のフル消化にまで言及したのは、欧米から発せられる長時間労働批判への外交的メッセージ(回答)−という側面もあったような気がします。
とは申せ、今や増加の一途を辿るメンタルヘルス問題一つをとっても、アブセンティーイズムによる社会保障費の増大=病欠等による休業補償費増=とプレゼンティーイズムによる生産性の低下=体調不良や病気を抱えながら就業する者がもたらす、個人並びに組織パフォーマンスの低下=が、巨額の経済損失を生んでいるのは事実であり、有給休暇の取得促進政策には、それなりの根拠があるように思えます。

 

●が、誤解を恐れずに云えば、この改革案の意図する社会保障費=この場合は、休業補償として費消される恐れのある財源=の抑制・低減化とは、裏を返せば民間企業へのコストの付け替え(有給休暇の取得促進=企業負担増による疾病予防)に他ならず、そもそも労使間で、フリーハンドで実施されるべき有給消化に容喙し、67%の休業補償を抑制しようとする一方で、手厚い措置が施されている公務員の休業補償(財源は税金)には手をつけない−という「二重基準」は、どう考えても矛盾した話…。

 

では何故、誰も何も言わないのでしょうか?
…企業側にも、長時間労働が原因で発生するであろう将来リスクを、相互扶助制度である社会保障に押し付けるな−と云う声(時として、当局側が巧妙に持ち出す自己責任論)に、正面切って反論し難い後ろめたさがあるからなのかも知れません。

 

●当面、これらの改革は努力目標に止まる公算が大きく、直ちに何かしらの手を打たなければならない訳ではありません。
けれども、近い将来、義務化される可能性は非常に高いと考えられ、そうなった場合に備え、今から相応の対策を練っておくのは、決して無駄ではないと思われます。
そのためにこそ、この際、260分の1=365分の3若しくは260分の2=365分の5等々の恒等式の意味を是非理解しておいて戴きたいのです。

 

●以前のレポートでもご案内した通り、分母に用いた260は、年間暦日数から平均的な休日数105日を除いた所定稼働日数を指し、1或いは2という分子は、それぞれ稼働日毎の重さ=重要性=を企業サイドから評価した数値、他方の365と3並びに5は、文字通り従業員側から見た日々の重要度=価値=を、分数で表示したものです。

 

この様な「一日の価値の違い」にどうして着目する事が重要なのでしょうか?

 

●人手の限られた中小企業にとって、有給休暇の消化は常に厄介な難題として位置づけられて来ました。
なぜなら、これは、予実管理には最も馴染まない課題だと誰もが思い、それが常識となっていたからです。
思い込みによる間違いに、誰も気付かなかったのです。
しかし、その開かずの扉に260分のm、365分のnという複合思考のカギを差し込めば、劇的に局面が変わり、課題解決への途が一気に開けてくる−そのように私は確信しています。

 

●従来、予実管理から最も縁遠いと考えられてきた課題のスケジュール化を実現する手順としては、次のような方法が考えられます。

 

従業員から年5日程、重要度順に大切な月日を書き出して貰い、会社側の価値基準比率と照し合わせた上、消化予定日を調整(例えば、従業員にとって365分の3の価値となる日と会社にとって260分の2の価値となる日を等価交換する−365分の3=260分の2 の関係式を成立させる)します。

 

この過程でのやり取りが、非常に高機能なコミュニケーションツールそのものとなり、互いに得た情報に基づく等価交換が、公明性の担保となります。
無論、この仕組みがスムーズに運用できればベストですが、従業員間又は上司・部下間で、希望日が重なった場合はどう考えたらいいのでしょう。

 

一つの考え方ではありますが、先輩は後輩の予定を優先し、上司は部下にその日を譲る−これが社風、文化として定着することが、最も望ましいのではないかと思います。
会社と従業員及び従業員同士の相互信頼が格段に深まり、モチベーションの向上に繋がるのは、云うまでもありません。

 

●そればかりか、この仕組みが機能することによって省力化やIT化による資本生産性ではなく、業務効率の改善・向上をテコとした労働生産性のアップをも導き出す事が出来るのです。
時間当たりの労働生産性を左右するのは、粗付加価値に対する総労働投入量(従業者数×実働時間)の割合ですから、パフォーマンスの安定した従業員を過不足なく配置する事ができれば、日によって生ずる生産効率の変動が抑制(実働時間の圧縮効果が生まれる)され、生産性は上がる事になります。

 

260分のm、365分のnの考え方は、生産性アップという観点からも、非常に重要なのです。

 

有事のルール−:「260分の1=365分の3?」

 

著者/

夏目 雅志  / 三友企業サービスグループ

常に決断を迫られる経営者。
私達は常に経営者の傍らでその背を支え続けます。

 

 

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