有事のルール・本編「医師との連携・情報交換に立ちふさがる課題‐1」
4月号以来これまで、断続的な出欠勤を繰り返す社員A等の傍らには、思いがけず隠れサポーターの役割を果たす事となった生真面目で良心的な医師の存在がある筈-との仮説を立て、何回か具体的事例を通して検証を施して参りました。
実際、各事案に関わる状況証拠は、この仮説の信憑性をより強く印象付けるものではあったものの、何れも医師側への確認行為を欠いた、云わば一方的な欠席裁判に近い独断の域に止まり、忸怩たる思いの拭えない状態が続いておりましたが、それがここへきて、一気に視界が開ける局面が訪れたのです。
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去る12月16日、品川で開催された「メンタルヘルス・シンポジウム2012東京」。
講演を行った6名のコメンテーターは、斯界を代表するウツ病の専門家であり学者でもある一方、質疑応答を通して垣間見える人間性においても、良心的で真摯な、文字通り一流というに相応しい医師である事が伺える方々−云うならば、仮説で想定した「生真面目で良心的な、患者に寄り添うことを使命とする医師像」に、正にぴったりの方達でした。
そして、これから御紹介するその内容こそ、先の仮説を裏付ける「医師側からの証言そのもの」であったのです。全国から集まった、多数の産業医や主に大手企業の人事部門担当者等を前にして、専門医の口から、むしろ聞き手側が驚くような、これほど正直な本音が語られるとは、全く思いもよらない事でした。
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中でも注目すべき発言は、復職(リワーク)診断の際に、多くの医師に迷いがあるという事実です。発言者の先生が独自のネットワークを通して集計した処によると、病院・クリニックを通じ、その可否に迷う場合があると回答した精神科医が五十数パーセント、その結果としてなのか、リワーク可の診断後に再休職に至るケースがやはり過半数の医師から報告されたとの事でした。
純医学的見地からは、たとえ不完全な状態であっても、失職の危険を回避する為、患者から復職のゴーサインを強く要請される立場にある医師が、板ばさみ状態で悩む姿が浮かんで参ります。
それ程精神病理の奥行きは深く、未解明部分も多いだけに、最先端の研究を怠らない専門医でさえ「患者の愁訴の真贋については、実のところ断定を下しかねる事もある」という実状が隠さず開示されたり、或いは情報交換を積極的に呼びかける場面もあって、収穫の大きい会議ではありましたが、それでもこの状況には、幾つかの課題と疑問を呈さざるを得ない部分が残りました。
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情理に動かされた所見により、結果的に発生する可能性が高まる休職の反復は、本人の最終的な社会復帰の大幅遅延と社会的費用の増大という、巨額の経済損失を生ずるばかりでなく、精神的に不安定な、又はそれを仮装した社員を受け入れる側の企業にとっては、安全配慮義務(労契法5条・民法415条)や管理責任義務等の法的制約以外にも、組織の亀裂と崩壊という、由々しき事態を招きかねない恐れがあるからです。
※ 続きのレポートのご案内は、年明け後を予定しています。
有事のルール・本編
「医師との連携・情報交換に立ちふさがる課題‐1」
著者/
常に決断を迫られる経営者。
私達は常に経営者の傍らでその背を支え続けます。