有事のルール 番外編
今日現在の「平時」は、既にかつての「有事」に匹敵するポジションにあるという仮説に基づき、ここ数ヶ月、いくつかの具体例を引き合いに検討を加えて参りましたが、これがそう的外れでないのは、異論がないところかと思われます。
それを踏まえ、今後は具体的なルールの検証段階に入ってゆく訳ですが、その前に、この課題の前提となる構造的なリスクについて触れてみたいと思います。
一時のチャイナリスクが霞んでしまいそうな環境リスクや労務リスク(タイ-アユタヤの大洪水、インド北部の大停電、同「マルチ・スズキ」で多数の死傷者や逮捕者を出すに至った暴動等)が、中国以外の東南アジアでも、このところ立て続けに顕在化しています。
その一方、M&Aによりインド最大手の製薬メーカー「ランバクシー(R社)」を買収、ジェネリック医薬品分野の売上げ拡大を図ったD社が、米国医薬品局からR社の製造工程が同国基準を満たしていないとして輸入禁止令を受け、大赤字に陥った事件(2009)や、プラントメーカーのN社が、ナイジェリアでのプロジェクト受注を目指し、同国政府高官に賄賂を贈った行為が、合弁相手の本国である米国の「海外腐敗行為防止法」に抵触する共謀・幇助に当るとして190億円近い和解金を支払った事案(2011)等、典型的な法務リスクも際立ち始めています。
これらは、いずれも海外展開を図る上場企業が直面した問題であり、国内の中堅・中小企業や内需型企業には無関係な話のように見えますが、実はそうではないのです。
内需型・中小企業の代表選手である「介護事業」を例に引いてみます。
かつて、ジュリアナ東京で一世を風靡した「折口某」氏が、その後転身を図って立ち上げた「コムスン」に見られるように、この業界は、今でも異業種からの新規参入が絶えない殆ど唯一の分野だとさえ云われています。
先の見えない長期のデフレ不況下にあって、人口動態の推移に応じて需給予測が可能な上、3ヶ月分の運転資金さえ確保できれば、後は介護保険から確実に入金が見込める、謂わば「国の保証付き」事業である事が、その最大の要因とされていますが、コムスンがそうであったように、往々にして利点はそのまま弱点に反転しかねません。
国の財政事情、政府の方針転換等の直撃を受け易く、規制や制限、監査という保証の’連れ子’もついて回りますが、最も重視すべきは、究極の労働集約型-労務リスクの地雷原そのもの-という事業構造が、そのままダイレクトに問題化する点にあります。
見聞した限りでも、遺憾ながらこの点に気づかないまま参入を図る事業者が、大変多いように感じます。
サービス提供の対象もヒトなら、経費の大半もヒト。事業所内外至るところにトラブルの火種が遍在し、伏在しています。
例えば、とある地域では、不正行為で指定取消しになった事案60件/年の内、半数が苦情告発によるものでその半分(全体の25%)が現・元社員、利用者&その家族による場合も全体の10%に及ぶ旨報告されています。
労務リスクが「法務リスク=処分権行使」に直結した一例ですが、実はこれが金融リスクにも飛び火するという事実が看過されている恐れがあります。
一般事業者にも決して無縁ではないリスクの連鎖をご案内致します。
(注)レポートの配信は、夏期休暇明け頃にずれ込む場合もありますので、ご承知置き戴きたいと存じます。
「有事のルール 番外編」
労務リスク=法務リスク=金融リスク!?
著者/常に決断を迫られる経営者。
私達は常に経営者の傍らでその背を支え続けます。