有事のルール2704[迫り来る法改正の荒波−14:マイナンバーの終着点]
●新聞やテレビ等のメディアを通して、このところ広報活動が活発化しつつあるマイナンバー制度。弁護士や私共の同業者も含め、関連法改正をビジネスチャンスと捉え、セミナー等に結び付けようという動きも広がっているようです。
●中でも、最も目立つのは、いわゆるIT業者やソフト開発業者、セキュリティ業界関係者等の面々。
F社などの大手からNPO、いわゆる警備システム会社等、各社入り乱れてシェア獲得に狂奔している様子が手に取るように判ります。
●マイナンバーが目指す電子政府−。
そのシステム化には、初期投資で3000億から5000億の予算が注ぎ込まれるといわれており、成長確実なこのマーケットを巡って関係業界が色めき立ち、周辺市場も含めた需要の掘り起こし、拡大競争に躍起となるのは、ある意味、市場メカニズムに忠実な行動として理解できなくもありません。
●けれども事の本質は、この制度の発足の経緯と終着点にあります。
マイナンバーについて政府は、「失われた年金記録問題」を論拠としながら、あってはならない事態の再発を防ぐ権利保護の為の施策の一環であると共に、行政手続きの簡素化や税負担の公平化を通して「国民生活における、画期的な利便性の向上」を目指すものだ−ということを強調しています。
●賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ−といわれるように、「国民の為」「国民の利に資する」等という、殊更に本音をひた隠すかのような政府宣伝を真に受ける国民は、そう多くはない筈ですが、繰り返されるメッセージにある種の不気味さを感じつつも、流石にその真意は測りかねる−というのが大半ではないかと思われます。
「隠すより、顕わるるはなし」の諺どおり、後ろ暗いからこそ隠そうとし、隠したいものから目を逸らそうするからこそ、逆方向に導くよう「鬼さんこちら−」と頻りに手を鳴らす…
マイナンバーについて、政府がそのメリットを繰り返し力説すればする程キナ臭さは増し、途方もないデメリットが潜んでいる気配が漂って参ります。
本稿では、そのキナ臭さの正体に、できる限り迫ってみたいと思います。
●身近な処でマイナンバーの旗振り役を買って出ているのは、政府の諮問会議にも名を連ねる、件の「業界関係者」です。
講演は、何れも実務的な課題−情報漏洩に絡む法的リスクやその防御策=つまり彼らの得意分野・専門分野の話=と、導入後の社会システムの変化予測、他国の事例等をテーマに組み立てられ、細部にわたる解説が行われる一方、制度設計の背景や経緯、国の目指すゴール地点について質問が及ぶと、それをかわす様に話を逸らし、曖昧な表現で幕引きを図ろうという気配が強くなります。
●専門家である以上、個人・法人を含めた情報の一元的電子化が行き着く先に、何が待ち受けているか=未来図=は、恐らく察しが付いている筈ですが、先の大戦の折、殺人兵器に使われるかも知れないと薄々感じながら、良心に蓋を被せた科学者達同様、それを口に出来ないもどかしさと忸怩たる思いが、彼等にもきっとあるのかも知れません。
●処で、彼らが触れようとしない「未来図」とはどんなものなのでしょうか?
電子政府先進国の先例として持ち出される、次の様な国のモデルが、多分その答えではないかと思います。
ロシアやナチス等、幾度かの侵略や占領を経て、91年に旧ソ連圏から独立を果たした、人口僅か134万人ながら徴兵制を持つ、北欧の小国エストニア。
同じ北欧にあって、仏露等との戦争でフィンランドやノルウェーを失い、今の形となった世界的重火器メーカーの本拠地=そもそもがノーベル(ダイナマイトの発明)の出身地=で、昔はヴァイキング、今は福祉国家としての印象が強い、陸海空3軍(徴兵制は5年前に廃止)を有する人口約1000万人の、その3分の1が公務員というスウェーデン。
そして、38度線を境に北朝鮮と睨み合いを続ける、国と財閥が一体化した民主主義国家、韓国。
●これらの国には、何れも周辺国との間で、常に緊張関係にあるか又はその状態を強いられてきた経緯があり、軍事面でのリスクや防衛機能の強化−徴兵制、3軍制等−が必須とされている事、国土が狭く人口(韓国はやや例外)もかなり少ない為、統治が行き届き易い点、特に旧共産圏のエストニアは、ソ連抑圧下にあったハンガリーや対米戦争でインフラの破壊が激しかったベトナム同様、近代化の遅れを奇貨として、一気に超近代(ex固定電話を飛越えいきなり携帯電話の時代)へと変貌した点、等の共通項が見られます。
●政府が終着点モデルとして視野に入れているに違いない、IT先進国エストニアと韓国、更には、ベトナムの実態について、少し触れてみる事に致します。
ソ連崩壊以後、近代化のプロセスを経ないまま、いきなり電子化時代に突入したエストニアのケースは、ソ連占領下で近代国家構築が遅れていたハンガリーや、戦禍で社会資本が破壊され、近代化の手前で立ち止まらざるを得なかったベトナムにも当て嵌るものです。
旧共産圏という、共通の事情にあったこれらの国は、統制と管理を実施しやすい電子化を一斉に採用。
ベトナムでは、国民個々にIDナンバーがいち早く割り振られ、情報が当局に一元的に管理された結果、鉄道等を利用して県境を越える事すら制限され、エストニアでも旅客チケット購入の際、マイナンバーが要求されるとの事。
民主国家において、最も尊重されるべき「自由」が、ものの見事に骨抜きにされている様子が伺えます。
お隣「韓国」の状況も、似たり寄ったりのようです。韓国では、カード決済が盛んに奨励されているそうですが、その狙いは、購買を通した国民一人一人のデータ収集を円滑且つ自動的に行い把握する事にある、とみてほぼ間違いありません。
そして、データ収集と情報管理を請け負うのは一体誰なのか−最早、その答えを知らない者はおりません。
●私達を待ち受けている未来図が、もしこのようなものだとすれば、かのジョージオーウェルが描いた「1984年」の世界と、どこが違うというのでしょうか?
私達にとって、決して蔑ろにできない問題だと思われます。
有事のルール−:「有事のルール2704[迫り来る法改正の荒波−14:マイナンバーの終着点]
著者/
常に決断を迫られる経営者。
私達は常に経営者の傍らでその背を支え続けます。