有事のルール−:「法案を左右するプレッシャーグループ」 [迫りくる法改正の荒波−13]
<序文>
労働者派遣法の改定作業が、予定通りには進捗していないようです。
1986年に成立した「派遣法」は、幾度かの修正を経て来年で30年の節目となりますが、今次改定の最大の特徴は、派遣メンバーの顔ぶれさえ変われば、受入れ企業(派遣先)側は、いわば永久に派遣労働者を使い続けることができる−という点にあると云って良いかと思います。
政権サイドが、常にその意向に逆らう事が出来ないとされる二大勢力の一つである財界=スポンサー=の、強い要望によって実現が急がれているこの法案−それが、正に、そのスポンサーからの献金問題で審議が足踏み状態に陥っている−というのは、皮肉と云う他ありません。天網恢恢疎にして漏らさず−というべきでしょうか。
一方、派遣労働者側から見ると、この改定は、これまで辛うじて確保されていた3年経過後の正社員への途を実質的に閉ざすのと同然であり、政府が唱える「何も正社員だけがまともな働き方ではない」「21世紀の働き方には様々な選択肢、多様性が求められている」等という、尤もらしいタテマエ論が大手を振って歩き出せば、以前なら「家庭を築き次世代を育成する」等の、至極ありふれた将来展望すら覚束ない、そんな状況に身を置き続けなければならない事になります。
そして見過ごしに出来ないのは、背後で蠢く第三の当事者−他ならぬ「派遣業者」です。「正社員化しない働き手」は、彼らにとって無くてはならないリソース−多ければ多いほど調達コストが下がる、極めて重要な経営資源だからです。
私的諮問機関に過ぎない「専門家会議」での発言や提言が、結局の処、閣議決定なる政府案として法案化され、法律として制定される−この仕組に深く関わり暗躍する派遣業界関係者の存在は、この問題の隠れた闇を物語っています。
プレッシャーグループの一翼を担うもう一つの勢力は、件の強面外資です。
私達の目に、それがはっきり映り出したのは今から凡そ16年前、医療ミスがメディアで大々的に取り上げられ始め、外資系保険業者の動きが活発化すると共に、司法制度改革に火が点いた頃ではないかと考えています。
医療事故−保険カバー/紛争−司法解決の図式は、医療・保険・司法の三点セットが生み出す、巨額の利権の存在を示唆しているのではないか−。
こうした利害関係の源流を探る為、本文では、その外資が深く関わっているGPIF問題に、先ずは焦点を当ててみる事に致します。
<本文>
●GPIFとは「Government Pension Investment Fund」の略で、国民(社会保障協定で除外対象となる者を除く外国人労働者や技能実習外国人を含む。以下「国民」と総称)から預かった、将来の年金給付に備えた厚生・国民年金の積立金資産131兆円、を管理・運用する独立行政法人をいい、その「管理・運用」自体が、正に疑問視されているのです。
根本的な疑問は、先ず、いくら’年金積立金管理運用独立行政法人法(以下「年金運用法」と略称)’に定めがあるとは云え、これは間違いなく「他人」、つまり私達の資産である訳ですから、資産所有者に断りも無く、勝手に運用する事が許されて良いのか、という点です。
●そして、これら公的年金の積立金が運用上、不利益を被る=公的年金財政に、株式投資によるリスクを抱えこむ恐れが否定できない=以上、これまでの運用状況を一変させた方針転換=現在、国内株式比率と外国株式比率をそれぞれ12%から25%に倍増。国内債券は60%から30%に引き下げる一方、外国債券比率を11%から15%に引上げ=から浮かび上がってくるのは、他人の金を博打場に注ぎ込む無責任な気楽さと、与り知らぬ処で老後の生活資金を弄ばれるに等しい国民の、やり場のない不安と疑念に他なりません。
●問題の本質は、株式投資が持つ本来の意味合いに由来しています。単純計算でも、これまでの運用と併せ、総額17兆円に上る巨額資金が国内市場に流れ込むのですから、これは相場を大きく混乱させる要因となるだけでなく、元々の資金の出し手は国民であっても、政府機関による投資である以上、いわば政府が民間企業の大株主、つまり、民間企業の事業運営やガバナンスに対し、理論上、監督責任を負うことになる為です。
●因みに、GPIFをめぐる国会質疑では、年金資金の運用はしかるべき収益を生み出しており、株式運用への資金シフトは決して間違いではなかった旨の政府答弁が為されていますが、実はこの答弁にこそ、大きな矛盾があるという指摘があります。
株式保有を通し、厳格な監督責任を負っている者(政府)が、同時に最大限の利益を期待しこれを追求する立場に立つという、利益相反関係が生ずる事になる−と云うのがその理由ですが、指摘はそれに止まりません。政府が期待する「運用益見積もり」自体が、かなり杜撰だと云うのです。
仮にこのGPIFが、運用益を年5.5%で設計し、当初10年程は倍近いリターンを得たものの、バブル崩壊やリーマン等、失われた20年に翻弄され、債務返済の見込みも立たず、制度自体が崩壊するに至った件の厚生年金基金同様、甘すぎる見通しに立っているとするなら、何兆円どころか十兆円を超えてしまう規模の国民の財産が、株価の浮き沈みで雲散霧消しかねないという、極めて重大な不安要因を抱え続ける事になるからです。
●株式の売買市場に占める割合が60%を超えるとされる外資−。その意向が無視できない「円安と株高が生命線」といわれる現政権−。
こうした背景から浮かんでくるのは、次のような仮説です。
『外資以外の、国内の安定的な購買力を求めて辿り着いた窮余の策がGPIF活用だった。が、結局、年金資産運用機関の7割強を外資系に握られ、国外市場への投資にも原資が吸引される展開の中、国民は相変わらず蚊帳の外に置かれた状態のまま放置されている』−もしこれが、この間の紛れも無い図式だとするなら、次に問題となるのは、年金運用法第19条=GPIFは「金融機関その他…法人に対し…業務の一部を委託する事ができる」=という一節です。
これは、政府が、投資先の株式の議決権行使を運用会社(ゴールドマン等)に一任、つまり丸投げするという事に他ならず、政府の名で行われる、その実、外資による事実上の国内企業乗っ取り=外資による日本経済の実質的支配に手を貸す行為そのものではないか−という疑念を抱かざるを得ないからです。
<続く>
有事のルール−:有事のルール−:「法案を左右するプレッシャーグループ」 [迫りくる法改正の荒波−13]
著者/
常に決断を迫られる経営者。
私達は常に経営者の傍らでその背を支え続けます。