工場におけるパレットの効率的運用とパレット管理システムのねらい

工場におけるパレットの効率的運用と
パレット管理システムのねらい

 日本パレット協会のホームページによると、2011 年時点で日本国内にレンタルパレットだけで約2,000 万枚あると報告されているが、社有パレットも含めると実際は数億枚あると推定される。パレットは工場、SP、物流センター、取引先など広範に流通しており、その効率的運用は日本経済全体の効率化にもつながると言っても過言ではない。

 

 しかし、例えば標準的な木製パレットの単価は、約3,500〜4,000 円として、平均3,000 枚のパレットを使っている工場の場合では、年間約2割、約600 枚が破損や紛失などの理由で滅失し、その補充に毎年240 万円程度の出費を強いられている。このようにパレット費用はまさに「見えざる」物流経費の代表格であり、特にパレット紛失はそのまま利益の逸失を意味しており、工場経営上の大きな問題といえる。

 

 一方、パレット管理の方法としては表計算ソフトなどでの対応が多く、この問題に正面から向き合ったシステムの導入をしているところは多くない。
 効率的パレット運用にはそのツールであるシステム導入は不可欠であるが、本稿ではパレット管理システム導入の阻害要因を分析し、今後のパレット運用を改善するための具体的なアクションプランを描いていく。

 

パレットはなぜ紛失するか?

 1.パレットの特性

 現在起こっている問題はパレットが紛失してしまう、場合によっては紛失したかどうかすらわからないことと、不当使用が横行している実態があることである。その究極の原因はパレットの特性にある。つまり、パレットは商品などの保管とロット化による取引先との輸送の効率化のために使われるが、主に以下の原因で紛失してしまうケースが後を絶たない。
 @取引先に出た場合はパレットが帰属場所の管理範囲から出てしまうこと
 Aパレットは案外簡単に持ち去ることができること
 B同じ仕様のパレットは仕訳をされるとそもそもの帰属がわからなくなってしまう

 2.現場の実情

 実際、物流現場では、
 @パレット上の商品の積替えをするなどパレット流出を防ぐためのさまざまな作業手順を定めているが、徹底が必ずしも容易ではない
 A表計算ソフトを使って管理しているところが多いが、パレット受払情報の把握にタイミング差が生じ、在庫があいまいになるため紛失の把握が遅れる
 Bこれが塵も積もって、パレットの棚卸しをすると大きな誤差が出てしまう現実があり、不明パレットになってしまうのである。

 

 しかし、一番大きな原因は、パレットは消耗品という考えで、そもそも正確な管理をすべき対象外であると考えられていることにある。

 

パレットが紛失することによる問題点

 パレットの購入額は決して安くないものであるが、パレット1枚の価格がそれほど高額ではないため、通常は消耗品として経理上処理されていることが多く、儲かっている時にはたくさん買ってため込んでおき、苦しい時には買わずに我慢をすることによって利益の調整弁的メリットもある。しかしながら、数年間は使えるという耐用年数からも、本来、資産的扱いにすべきものと考える。

 

 経営上の問題点を以下に挙げる。
 @そもそも、本来あるべき企業利益を逸失している
 A国際会計基準などの視点に立てば、無視できない金額のパレット紛失は、投資家に対し経営実態を正確に開示していない
 B不足分のパレット購入時に「紛失した理由」と防止対策を社内で求められるが、紛失を正確に把握できてないため、その場しのぎに終わってしまう
 Cましてやレンタルパレットの紛失賠償の支払いはなかなか承認が下りないため、担当部署がパレットの紛失問題を先送りする

 

 その結果、経営実態を歪めたり、社内で大きな問題になったりしているケースも多い。

 

パレット管理システム導入の阻害要件と導入メリット

 1.システム導入の阻害要件

 このように問題のあるパレット管理について、ツールとなるシステムの導入は当然必須と考えるが、「一見簡単そうで奥が深い」と言われているように、片手間にできるシステムではない。そのため、パレット管理システム導入の阻害要件としては、以下のような事項が挙げられる。

 

 @ニッチな分野のシステムなので社内のIT 担当者が真剣に取り組んでくれる対象ではない(IT 担当者は他の案件で手一杯)
 A提案されるパレット管理システムが工場におけるパレットの効率的運用のニーズに必ずしも合っていない(パレット管理に付随する事務作業まで対象になっていないなど)
 B番号管理システム導入の場合、導入初期コストが重い(システム開発費、ハンディ端末導入費、タグ(ラベル)貼付費用)
 Cパレットレンタル会社のシステム利用の場合、レンタル会社に囲い込まれて結局高いものになる懸念がある(レンタルパレットは上手な運用をしな
いと、高コストの傾向がある)
 Dそもそも実務レベルで起きていることが経営レベルに報告されず(藪を突いて蛇を出したくない)、パレット管理にコストをかけるのをムダと思う傾向がある

 

などがある。

 

 2.システムの導入メリット

 一方、パレット管理システムの導入のメリットとしては以下のことが想定される。

 

 @パレット紛失費用の減少
 A EXCEL などによるパレット管理事務の負担軽減
 B正確なパレット管理をしていることによって関連先への不正使用への牽制
 Cパレット上の商品と紐付けたシステム導入をすることによる商品トレーサビリティーの向上期待(将来展望)

 

 以上の諸メリットがシステムコストを上回れば導入可能となるが、的を射たシステムの導入ができれば、紛失費用の減少だけで十分コストを捻出でき、その他の面で有り余るメリットが出ると考えられる。

 

パレット管理システムの実際

 パレット管理システムには2種類がある。
 導入簡単、低コストであるが限界もある枚数管理システムと、正確な管理が可能だが一定の初期投資を必要とする番号管理システムである。以下、2つのシステムの特徴を述べる。

 

 1.手軽な枚数管理システム

 Web を使ったクラウド的な利用で軽快・低コストなシステム。月数千円から利用可能で、インターネットに接続したパソコンとプリンタだけで稼働、初期費用はほとんどなし。受払伝票や串刺し帳票発行機能を持っている。また、複数置場の設定や輸送中パレット枚数の把握など現品本位の管理ができるようになっているシステムもある。
拠点数が少ない場合や、しっかりした現場運用が可能な場合には、十分な効果が出る(図1)。

 

 2.パレットが見える番号管理システム

 個体に番号識別ラベル( タグ)を付けた、精度の高い管理システムであり、パレットのリアルな動きが追えて、正確な回転率や長期滞留などの把握ができるシステムである。業務改善やスムーズなパレット購入計画にも威力を発揮する。
 このシステム導入に当たっては、現場に負担のかかるパレット移動情報をいかに入力してもらうかをデザイン・設計する。そのため、重要ポイントの受払いはハンディ端末による番号のバーコード読取りで行い、その他のポイントの受払いは枚数で行うなどの組合せにより、現場の負担を減らす工夫が必要である。また、現実的にはパレット移動情報はすべてのポイントから正確に送られてくるのではなく、脱落ポイントが存在する前提でIT システムを構築することを考えておかなければならない。
 枚数管理システムの受払伝票(イ)と串刺在庫表(ロ)に加え、図2のようにパレットの動きが検索画面にはっきり見えるシステムである。

 

工場におけるパレットの効率的運用とパレット管理システムのねらい

 

工場におけるパレットの効率的運用とパレット管理システムのねらい

 

効率的パレット管理システム導入へのシナリオ

 パレット管理システム導入を進めるためには、その阻害要因を取り除くことが必要である。

1.パレット管理システム導入の目的 

そもそも、システム導入自体が目的ではないので、自社工場におけるパレットの効率的運用を達成できる要件を備えたパレット管理システムを探すことである。 具体的には、 

 

 @自社のパレットの動きに合っているか
 Aパレット以外の物流容器も管理したいか
 B工場ラインごとなど細かく管理したいか

 

 などニーズに合っているかを確認する。
  また、パレットレンタル会社のシステム利用の場合にも、

 

 @レンタルパレット以外にも利用できるか
 Aトータルコストで自社パレットよりも低コストか
 B解約条件に問題はないか

 

 などを確認する必要がある。

 

 2.ホップ・ステップ・ジャンプの導入計画

 パレット管理システム導入を企画する時、当面の取組みと中期的なレベルアップに分け、早期に結果を出していかないと社内の熱が冷めて挫折することが多い。
 そこで、ホップ・ステップ・ジャンプの3つのステージに分けて取り組むことを勧めたい。

 

 <ホップ> まず枚数管理システムをすぐに導入(2?3カ月)    
  

導入が極めて簡単であるので、社内の申請も楽である。

 

 <ステップ>すべてのパレットに識別ラベル(タグ)を早期に貼付(6?8カ月)

パレット番号管理システム成功のポイントは、識別タグをいかに早く全部に貼り付けるかである。(当社はバーコード/QR コードラベルを推奨)

 

 <ジャンプ>番号管理システムの導入(1年以内)

ハンディ端末を導入し、番号管理システムをドッキング。
番号管理システム導入の場合、最小限のコストに抑えるために理想を追わないことがポイントとなる。

 

@ 100 点満点の完成度を狙わない
A システム+現場の運用で紛失防止を実現する

 先進国などの社会成熟化により輸送ロットの小口化が流れになり、輸送状況の把握もコンテナ単位から、LCL 単位に変わってきている。また、「安全」「安心」「確実」が一層強く求められ、パレットを始めとする小型輸送容器もローコストでムダなく、そして正確に管理していくシステムが求められてきている。
 また、産業界におけるグローバルな物もたらすさまざまな可能性が物流を大きく変えると予想している。
 将来、パレット紛失防止のための積替えが不要となり、パレットがシームレスに企業間を移動し、使用実績に応じて費用が番号ごとに自動清算され
る「パス・パレット」のような仕組みが実現したら便利になると思うが、少しずつではあるが、そこに近づきつつあると考えている。

 

参考文献
1) (社)日本パレット協会 ホームページ
2) 企業に眠る埋蔵金?コストを利益に変えるリバースオークション戦略?、谷口健太郎、Communication of the WIA No.78 早稲田工業経営学会
3) パレット管理システムの実際、ユソー新聞、2012 年8月27
日?9月24 日、服部泰夫

 

筆 者:服部泰夫 はっとり やすお IT コーディネータ、ピークコンサルティンググループ(株)東京 代表取締役
所在地: 〒101-0041 東京都千代田区神田須田町
2-9-1 ウィンクビル5F
 「パレット課長」という名で枚数管理システムをサービス提供している。 また、番号管理システムは管理業務手順のデザインからシステム提供サポートまでを行っている。
U R L:http://peak-cg.com
E-Mail:rep@peak-cg.jp